GMTマスターの歴史を徹底解説
ロレックスのプロフェッショナルモデルの中でも、デイトナやサブマリーナーと並んで高い人気を誇る「GMTマスター」。
赤青の「ペプシ」、黒青の「バットマン」、緑黒の「スプライト」など、現在ではベゼルカラーによってモデルを選ぶ楽しさもあります。
しかし、GMTマスターはもともとデザイン性を重視して誕生した時計ではありません。
原点にあるのは、国際線パイロットが複数のタイムゾーンを確認するための実用時計です。
1955年の誕生から約70年。GMTマスターは航空時計としての基本思想を残しながら、GMTマスターIIへの進化、セラクロムベゼルの採用、ムーブメントの刷新、素材やブレスレットの多様化を続けてきました。
今回は、GMTマスターの歴史を歴代モデルとともに振り返ります。
GMTマスターとは?
GMTとは「Greenwich Mean Time(グリニッジ標準時)」の略称です。
一般的な時計が時針・分針・秒針によって現在時刻を表示するのに対し、GMTマスターには24時間で文字盤を1周するGMT針と24時間ベゼルが備わっています。
これにより、異なるタイムゾーンの時刻を確認できるのが大きな特徴です。
海外を頻繁に移動するパイロットや旅行者にとって、現地時間と自国の時間を確認できることには大きな意味があります。
現在では高級スポーツウォッチとして認識されることの多いGMTマスターですが、そのルーツは極めて実用性の高い「パイロットウォッチ」だったわけです。
1955年|初代GMTマスター Ref.6542が誕生

GMTマスターの歴史は1955年に始まります。
初代として知られているのがRef.6542です。
1950年代は航空機による長距離移動が急速に発達した時代でした。国境を越えて移動する機会が増えるにつれて、パイロットには複数のタイムゾーンを把握する必要が生まれます。
そこで登場したのがGMTマスターでした。
通常の時刻表示に加えて24時間針と回転式24時間ベゼルを利用することで、異なるタイムゾーンを把握できる仕組みです。
GMTマスターの歴史を語る際に欠かせないのが、当時の大手航空会社パン・アメリカン航空(パンナム)との関係です。
国際線パイロットとの結びつきによって、「世界を飛び回るプロフェッショナルのための時計」というGMTマスターのイメージが形成されていきました。
現在のGMTマスターIIを見るとラグジュアリーな印象が強くなっていますが、原点はあくまで航空業務を支えるツールウォッチです。
1959年|Ref.1675登場、GMTマスターの基本形が完成
1959年には第2世代となるRef.1675が登場します。
GMTマスターの歴史において、非常に重要なリファレンスです。
大きな変更点のひとつが、リューズ周辺を保護するクラウンガードの採用。
スポーツウォッチとしての堅牢性が高められ、後のGMTマスターにもつながるデザインが形成されていきました。
Ref.1675は長期間にわたって製造されたこともあり、文字盤やベゼル、素材などにさまざまなバリエーションが存在します。
赤青ベゼルはもちろん、ゴールドやコンビモデルなども展開され、GMTマスターは単なる航空用ツールから高級スポーツウォッチとしても存在感を高めていきます。
1982年|GMTマスターII Ref.16760登場
GMTマスターの歴史における大きな転換点が1982年です。
GMTマスターII Ref.16760が登場しました。
初代GMTマスターから続いてきた基本コンセプトを受け継ぎながら、機能面で大きな進化を遂げます。
重要なのが、時針を単独で動かせるようになったことです。
GMT針との関係を保ちながらローカルタイムの時針だけを変更できるため、海外へ移動した際の時刻調整がより簡単になりました。
現在のGMTマスターIIを特徴付けている機構の原点です。
ここからGMTマスターは、単にGMT針を備えた時計から「複数のタイムゾーンをより実用的に扱える時計」へ進化していきます。
GMTマスターとGMTマスターIIは一時期併売されていた
GMTマスターIIが登場したからといって、従来のGMTマスターがすぐに姿を消したわけではありません。
その後もGMTマスターは生産され、代表的なモデルとしてRef.16700などが存在します。
つまり、一時期は「GMTマスター」と「GMTマスターII」が並行して展開されていました。
その後、シリーズはGMTマスターIIへと集約されていきます。
現在のラインナップだけを見ると分かりにくい部分ですが、GMTマスターの系譜を理解するうえでは押さえておきたいポイントです。
2005年|セラクロムベゼル採用で大きく進化
2000年代に入ると、GMTマスターIIは現代的な高級スポーツウォッチへと大きく進化します。
重要なのがセラクロムベゼルの採用です。
2005年に登場したイエローゴールドのRef.116718LNでは、セラミック製ベゼルが採用されました。
従来のアルミ製ベゼルインサートと比較して、傷や紫外線などによる変色に強いことが特徴です。
現在ではセラクロムベゼルはロレックスのスポーツモデルを象徴する要素のひとつですが、GMTマスターIIにとっても非常に大きな転換点でした。
2007年|Ref.116710LNで現代GMTの基本形へ
2007年にはステンレススチール製のRef.116710LNが登場。
ブラックのセラクロムベゼルを備えたGMTマスターIIです。
ケースやブレスレットなども進化し、現在につながるモダンなGMTマスターIIのスタイルが確立されていきました。
1955年に航空用ツールとして誕生したGMTマスターが、実用性を維持しながら現代的なラグジュアリースポーツへ変化していったことが分かります。
2013年|黒青ベゼル「BLNR」が登場
2013年にはGMTマスターIIの人気をさらに押し上げるモデルが登場します。
Ref.116710BLNRです。
最大の特徴は、ブラック×ブルーの2トーンセラクロムベゼル。
現在では「バットマン」の愛称でも知られています。
セラミックという素材で異なる2色をひとつのベゼル上に表現する技術が採用され、GMTマスターIIの「ベゼルカラーを楽しむ」という現在のスタイルを強く印象付けました。
2014年|赤青「ペプシ」がセラミックで復活

翌2014年には、GMTマスターを象徴する赤×青の組み合わせがセラクロムベゼルで復活します。
Ref.116719BLROです。
ホワイトゴールド製で登場しました。
赤色をセラミックで表現することには技術的な難しさがあり、赤青ベゼルの復活はGMTマスターの歴史において重要な出来事となりました。
初代から続く伝統的なデザインと、現代の素材技術が融合したモデルといえるでしょう。
2018年|SSペプシ Ref.126710BLRO登場
2018年には大きな注目を集めたRef.126710BLROが登場します。
ステンレススチールケースに赤青セラクロムベゼル、そしてジュビリーブレスレットを組み合わせたモデルです。
さらに新世代ムーブメントを搭載し、GMTマスターIIは現行世代へと移行していきます。
クラシカルな赤青ベゼルとジュビリーブレスレットの組み合わせは、従来のスポーツウォッチとは少し異なる雰囲気を生み出しました。
現在でもGMTマスターIIを代表する人気モデルのひとつです。
2019年|黒青もRef.126710BLNRへ世代交代
2019年には黒青ベゼルも新世代へ移行。
Ref.126710BLNRが登場しました。
従来のRef.116710BLNRから基本的なカラーリングを継承しながら、新世代ムーブメントなどを採用。
ジュビリーブレスレットとの組み合わせによって、新しいGMTマスターIIの方向性がより明確になりました。
2021年|オイスターブレスレットが追加
2018年以降のステンレスGMTマスターIIではジュビリーブレスレットが印象的でしたが、2021年にはオイスターブレスレット仕様が追加されました。
これによって同じベゼルカラーでも、
ジュビリーでクラシカルに楽しむか、オイスターでスポーティーに楽しむか
という選択肢が生まれます。
現在のGMTマスターIIはベゼルカラーだけでなく、ブレスレットの違いもモデル選びの重要な要素になっています。
2022年|左リューズのRef.126720VTNRが登場
2022年にはGMTマスターIIの歴史でも異色のモデルが登場しました。
Ref.126720VTNRです。
グリーン×ブラックのセラクロムベゼルに加え、リューズと日付表示を通常とは反対側に配置した特徴的な仕様です。
シリーズの伝統を守りながらも、デザインの常識を大きく変えた一本でした。
「スプライト」の愛称でも知られています。
2023年|グレー×ブラック「GRNR」登場

2023年にはグレー×ブラックのセラクロムベゼルを採用したモデルが登場します。
イエローゴールドのRef.126718GRNR、イエローロレゾールのRef.126713GRNRです。
赤青、黒青、緑黒といったコントラストの強いカラーとは異なり、グレー×ブラックは比較的落ち着いた印象。
GMTマスターIIがスポーツウォッチとしての機能性だけでなく、ラグジュアリーウォッチとしても多様化していることを象徴するモデルといえます。
約70年でGMTマスターはどう進化したのか?
1955年から続く歴史を整理すると、GMTマスターの進化は大きく5段階に分けられます。
① 航空時計として誕生
1955年、国際線パイロットのための実用時計としてGMTマスターが誕生。
② スポーツウォッチとして成熟
Ref.1675などを通じてクラウンガードを採用し、耐久性やバリエーションを拡大。
③ GMTマスターIIへ機能進化
1982年、時針を単独調整できるGMTマスターIIが登場。
④ セラクロムベゼルへ進化
2000年代以降、耐傷性や耐候性に優れたセラミック製ベゼルを採用。
⑤ カラー・素材・ブレスレットが多様化
赤青、黒青、緑黒、灰黒などのベゼルに加え、ステンレス、ロレゾール、金無垢、ジュビリー、オイスターなど選択肢が拡大しました。
GMTマスターが約70年経っても人気であり続ける理由

GMTマスターの面白さは、約70年間で大きく進化しているにもかかわらず、1955年に確立された基本コンセプトが現在まで残っていることだと思います。
24時間針、回転ベゼル、異なるタイムゾーンを確認するという基本思想は、初代から現行モデルまで一貫しています。
その一方で、時針の単独調整、セラクロムベゼル、新世代ムーブメントなど、中身は時代に合わせて進化してきました。
そして近年は「何色のGMTを選ぶか」「どの素材を選ぶか」「ジュビリーかオイスターか」といった選択肢も増えています。
変えてはいけない部分は残し、時代に合わせて変える部分は進化させる。
これこそがGMTマスターが長期間支持されてきた理由のひとつではないでしょうか。
1955年に空を飛ぶパイロットのために誕生した一本のツールウォッチ。
それが約70年の時を経て、現在ではロレックスを代表するスポーツモデルのひとつへと成長しました。
GMTマスターの歴史を知ったうえで現行モデルを見ると、赤青ベゼルやGMT針といった何気ないデザインにも、長い歴史が受け継がれていることが分かります。



















