オマーンロレックスとは?カンジャール刻印の意味・王室との関係・希少性を解説

ロレックスの文字盤や裏蓋に、短剣と交差する剣のマークが入った個体があります。
一般に「オマーンロレックス」「カンジャール・ロレックス」と呼ばれる、オマーン王室にゆかりのある時計です。
人気モデルの珍しい仕様というだけでなく、贈答の歴史や来歴も評価されるのが、このジャンルの特徴。今回は、カンジャールの意味、王室との関係、希少性、購入時の注意点を解説します。
オマーンロレックスとは?
「オマーンロレックス」は、ロレックスの独立したモデル名ではありません。オマーンの紋章や、カーブース前国王の署名などを備える個体を指す通称です。
オークションに登場する例には、デイデイト、デイトジャスト、シードゥエラー、デイトナ、GMTマスターIIなどがあります。通常のモデルと同じリファレンスでも、王室向けの特別な仕様や背景によって、別のコレクター価値を持つ場合があります。
ただし、オマーンで販売されたロレックスが、すべて王室向けの特注品というわけではありません。販売国と王室由来の来歴は分けて考える必要があります。
カンジャールのマークにはどんな意味がある?

カンジャール(Khanjar)は、オマーンの伝統的な湾曲した短剣です。
オマーン外務省によると、国章は鞘に収められたカンジャールと帯、その背後で交差する2本の剣で構成されています。もともとはアル・ブーサイード王朝の紋章として使われ、のちに国章となりました。[1]
時計に見られるこのマークは、単なる装飾ではなく、オマーンの国家や王室との関係を示す意匠として知られています。
なぜオマーン王室がロレックスを注文したのか

カンジャール仕様のロレックスを語るうえで欠かせないのが、カーブース・ビン・サイード前国王です。
Sotheby’sの資料では、1970年代初頭に、ロンドンの高級小売店アスプレイを通じて特別注文が行われ、要人や親しい関係者への贈答品として用いられたと説明されています。[2]
つまり、一般販売だけを目的とした時計とは異なり、感謝や敬意を伝える品としての背景を持っています。贈られた相手や経緯が記録に残っている個体では、その来歴も時計の魅力になります。
カンジャールはロレックスが入れたの?
ここは、一律に断定しないことが大切です。
Phillipsのデイトナに関する資料には、特別注文に際して、小売店がロレックスからレイアウト変更済みの文字盤と、通常の文字盤の両方を受け取っていたと記載されています。初期の一部には、カンジャールを配置するためにブランド表記を移動・省略した文字盤があり、後年の例には小売店が通常の文字盤にマークを追加したものもあると説明されています。[3]
このため、「すべてロレックスが直接マークを入れた」「すべてオマーン側が後から加工した」という説明は、どちらも正確ではありません。
王室向けの特別注文という背景と、実際にどこで意匠を施したかは別の問題。個体ごとの資料や販売経路を確認する必要があります。
文字盤にマークがあるものと、裏蓋に刻印があるもの

オマーン仕様といっても、外観は一様ではありません。
| 仕様 | 特徴 |
|---|---|
| カンジャール文字盤 | 文字盤上に国章の意匠が入る。色や配置、元の文字盤との組み合わせで印象が変わる |
| カーブース署名文字盤 | 前国王の署名を備える。カンジャール文字盤とは別の仕様 |
| カンジャール刻印の裏蓋 | 正面からは通常仕様に近く見えても、裏蓋に意匠が入っている |
Sotheby’sには、裏蓋にカンジャール刻印を持つGMTマスターII Ref.116710LNの掲載例があります。この個体では、外箱にも対応するマークがあり、保証カードにはオマーンの販売店Khimji Ramdasの印があると説明されています。
表側だけを見ると見落としやすい、という点もこのジャンルの面白さです。
なぜ希少性が評価されるのか

希少性の理由は、単にマークがあることだけではありません。
王室向けの特別注文、限られた贈答先、残存する時計の状態、付属品、確認できる来歴などが重なって評価されます。
同じモデルでも、文字盤の仕様や保存状態が違えば、コレクターの評価も変わります。そのため、「オマーン仕様はすべて何本限定」といった一括した説明や、全個体に共通する生産本数の断定は避けるべきです。
通常モデルの人気に加え、その個体にどのような背景があるかが問われる時計といえるでしょう。
販売価格と買取相場は分けて見る
Chrono24などで見かける高額な掲載価格は、基本的に売り手が提示する販売価格です。
その金額で実際に売れたことや、同額で買い取ってもらえることを示すものではありません。特に比較できる個体が少ない時計では、販売店ごとの価格差が大きくなりやすく、一般モデルのように相場を捉えるのは難しくなります。
価格を紹介する際は、掲載日、リファレンス、状態、付属品、販売価格であることをセットで記載したいところです。
オークションの結果も参考になりますが、通常の店頭販売価格や国内の買取相場とは条件が異なります。希少性を伝える資料として扱い、将来の値上がりを保証する根拠にはしないようにしましょう。
購入するなら「刻印」より「来歴」を確認
私がこのジャンルで最も重視したいのは、マークの存在だけで判断しないことです。
確認したいのは、販売店が示す来歴の根拠、文字盤や裏蓋の年代との整合性、交換・加工歴の説明、保証書や箱などの付属品、過去の販売・出品記録です。
カンジャールがあるというだけで、王室由来の真正な個体だと判断することはできません。また、オマーンの販売店が記載された保証書も、それだけで王室向け特注品の証明になるわけではありません。
価格差の大きいジャンルだからこそ、その差額を裏付ける資料や説明があるかを確認したいですね。
まとめ|オマーンロレックスの魅力は、時計の背景にある
オマーンロレックスの魅力は、通常モデルにはない意匠と、王室の贈答文化につながる背景にあります。
ただ希少だからという理由で選ぶのではなく、その時計がどのように注文され、誰の手を経てきたのかまで知ることで、魅力はさらに深まります。
普段はリセールバリューや入手難易度を中心にロレックスを見ている方も、こうした歴史を持つ個体に目を向けてみると、また違った楽しみ方が見えてくるのではないでしょうか。
参考資料:
[1] オマーン外務省「Flag, Emblem and National Anthem」 https://www.fm.gov.om/en/about-oman/state/flag-emblem-and-national-anthem/
[2] Sotheby’s「Retailed by Asprey: Sea-Dweller ‘Khanjar’, Reference 1665」 https://www.sothebys.com/en/buy/auction/2023/important-watches-part-i-2/retailed-by-asprey-sea-dweller-khanjar-reference
[3] Phillips「The Hong Kong Watch Auction: XIX / Rolex Ref.6265」 https://www.phillips.com/detail/rolex/HK080524/878
[4] Sotheby’s「Reference 116710LN ‘Khanjar’ GMT-Master II」 https://www.sothebys.com/en/buy/auction/2024/important-watches/reference-116710ln-khanjar-gmt-master-ii-a



















