現在のロレックスといえば、世界共通のラインナップからモデルを選んで購入するイメージが強いでしょう。
しかし歴史を振り返ると、現在とは少し違ったロレックスの姿が見えてきます。
特定の企業や軍、さらには正規販売店などとの関係から、通常の市販モデルとは異なる特別仕様の時計が作られていた時代がありました。
代表的なのが、
COMEX(コメックス)仕様のサブマリーナー、英国軍向けの通称「軍サブ」、そしてカルティエやTiffany & Co.の名前が文字盤に入ったダブルネームモデルなどです。
いずれも単なる限定カラーではありません。
実際の使用目的や企業との関係を背景として誕生している点が、現代の限定モデルとは大きく異なります。
今回は、そんなロレックスの歴史に残る希少なモデルを紹介します。

ロレックスには「特別注文」の時計が存在した
現在ではロレックスに「自分だけの仕様で作ってほしい」と依頼して時計を作ってもらうことは、一般ユーザーには現実的ではありません。
しかし過去には、プロフェッショナルの特殊な使用環境や軍の要求、販売店との関係などを背景として、通常とは異なる仕様を持った時計が存在しました。
重要なのは、これらの時計が単に「珍しい文字盤だから価値がある」というだけではないことです。
ロレックスがどのようにプロフェッショナルの要求に応え、実用時計を進化させてきたのか。
その歴史を知る資料としても非常に興味深い存在です。
1. COMEXとの協力から生まれた特別なサブマリーナー
その代表格が、フランスの潜水会社**COMEX(Compagnie Maritime d’Expertises)**とロレックスの関係から生まれた時計です。
COMEXは深海潜水などを行うプロフェッショナル集団で、ロレックスは実際の潜水環境で時計を使用してもらいながら、ダイバーズウォッチの開発を進めました。
そのなかでも非常に有名なのが、
サブマリーナー Ref.5514
です。
一般的なサブマリーナーとは異なり、COMEX向けに供給された特殊なモデルとして知られています。

ヘリウムエスケープバルブを搭載
COMEXモデルを語るうえで欠かせないのが、ヘリウムエスケープバルブです。
飽和潜水では、潜水士がヘリウムを含む混合ガス環境で長時間生活することがあります。
このとき微細なヘリウム分子が時計内部へ入り込み、浮上・減圧時に時計内部と外部で圧力差が発生すると、時計に負荷がかかる可能性があります。
そこで時計内部にたまったガスを逃がすために開発されたのが、ヘリウムエスケープバルブです。
つまりCOMEXとの関係は、単なる「企業ロゴ入りモデル」を作ったという話ではありません。
プロの潜水現場から得た知見が、ロレックスのダイバーズウォッチ開発に生かされた
という点に大きな意味があります。
文字盤に「COMEX」の表記を持つ個体もあり、現在ではロレックスのヴィンテージ市場を代表するコレクターズモデルの一つとなっています。
2. 英国海軍のために作られた「軍サブ」
ロレックスの特殊モデルでもう一つ外せないのが、通称
「MilSub(ミルサブ/軍サブ)」
です。
英国国防省の要求に合わせて製造・供給されたサブマリーナーで、一般販売された通常のサブマリーナーとは異なる特徴を持っています。
代表的なリファレンスとして知られているのが、
Ref.5517
です。

市販サブマリーナーとは細部が違う
軍用時計ですから、デザイン性よりも実際の任務での視認性や実用性が重要になります。
代表的な特徴として知られているのが、
文字盤の「T」マーク、固定式のバネ棒、視認性を意識した独特の針などです。
「T」はトリチウム夜光塗料の使用を示すものとして知られています。
また、軍用装備として使用することを前提としているため、通常モデルとは異なる仕様が採用されました。
現在の視点で見ると、
サブマリーナーをベースに英国軍の要求へ合わせて作り込んだ特殊仕様
と考えると分かりやすいでしょう。
一般向け商品とは違って供給数が限られ、さらに実際に軍用として使われた時計であるため、オリジナルの状態を維持している個体は限られます。
その歴史的背景も含め、ヴィンテージロレックスのなかでも特別なカテゴリーとして扱われています。
3. ロレックスとパネライには深い関係があった
ロレックスの歴史を語るうえで興味深いのが、パネライとの関係です。
現在はロレックスとパネライは完全に別の時計ブランドという認識ですが、その歴史をさかのぼると接点があります。
1930年代、イタリア海軍の潜水部隊向け時計の開発において、ロレックスがケースやムーブメントなどを供給したことで知られています。
その代表例として挙げられるのが、
パネライ ラジオミール Ref.3646
です。
大型のクッション型ケース、視認性を重視した文字盤など、現在のパネライにもつながるデザインを見ることができます。
ここで面白いのは、
「ロレックスブランドの時計」だけを見ていては分からないロレックスの歴史が存在する
ということです。
時計メーカーとして培った技術や製造能力が、別ブランドの軍用時計にも関係していたわけです。
4. カルティエやティファニーとの「ダブルネーム」
軍や潜水会社だけではありません。
過去のロレックスには、販売店などとの関係を背景として、文字盤に別の名称が入った時計も存在します。
いわゆる
「ダブルネーム」
と呼ばれる時計です。
代表例として知られているのが、
カルティエ × ロレックス
Tiffany & Co. × ロレックス
です。

デイトナ × カルティエ
ヴィンテージデイトナには、文字盤に「Cartier」の表記を持つことで知られる非常に珍しい個体があります。
今回紹介しているのは、
デイトナ Ref.6241のカルティエWネーム
です。
ただでさえ希少性の高いヴィンテージデイトナに、さらにカルティエとの関係を示す要素が加わるため、通常の個体とはまったく異なるコレクターズアイテムとして扱われます。
エクスプローラーI × Tiffany & Co.
そしてもう一つ有名なのが、
エクスプローラーI Ref.1016 × Tiffany & Co.
です。
文字盤にROLEXだけではなく「TIFFANY & CO.」の表記が入ります。
現在のロレックスではまず見ることのできない仕様だけに、現代の感覚で見ると非常に新鮮です。
一方で、こうしたダブルネームモデルは希少性が高いからこそ、文字盤の真贋や来歴、販売記録などの確認が極めて重要になるカテゴリーでもあります。
単純にロゴが入っているから価値が高い、という世界ではありません。
なぜ昔はこのようなロレックスが作られたのか?
現在のロレックスは巨大なグローバルブランドですが、長い歴史のなかでは時計を取り巻く販売・開発環境も大きく変化しています。
COMEXのようなプロフェッショナルとの共同研究。
英国軍から要求された実用時計。
パネライとの歴史的な関係。
そして有力な販売店・ジュエラーとの関係から生まれたダブルネーム。
背景はそれぞれ違います。
しかし共通しているのは、
「実用上の要求や、特定の組織との関係から通常とは違う時計が生まれた」
ということです。
これは現在の「限定モデル」とは少し性質が違います。
希少性を演出するために仕様を変えたというより、当時の実際の用途や流通の仕組みが結果として特殊な時計を生み出したケースが多いのです。
現在では考えにくいからこそ面白い
現代のロレックスは、製品やブランドイメージを世界規模で厳格に管理しています。
そのため、今回紹介したような特殊な時計を見ると、
「こんなロレックスが本当に存在したのか?」
と思う人も多いでしょう。
しかし、これらのモデルを調べていくと、ロレックスが単なる高級時計ブランドとしてではなく、実用時計メーカーとして発展してきた歴史も見えてきます。
特にCOMEXや軍サブは、現在のロレックスのプロフェッショナルモデルにつながる技術や思想を知るうえでも興味深い存在です。
そしてカルティエやティファニーとのダブルネームからは、現在とは異なる当時の時計販売の世界を垣間見ることができます。
相場だけを見るのではなく、
「なぜ、この時計が存在するのか」
まで掘り下げてみると、ヴィンテージロレックスはさらに面白くなります。



















