2025年8月7日、アメリカがスイス製品に対して一律39%の関税を発動しました。対象にはロレックスをはじめとする高級腕時計も含まれ、業界に激震が走っています。
この記事では、最新のニュースを紹介するとともに、アメリカ市場の現状、世界市場への波及、日本市場への影響を徹底的に解説していきます。
アメリカ市場で起きていること
アメリカはスイス時計にとって最大の輸出先であり、総輸出額の16.8%、およそ44億スイスフランを占めています。ここでの販売に39%もの関税が課されたことで、ブランド各社は対応を迫られています。
実際に、リシュモンやスウォッチグループの株価は一時急落しました。しかしその後やや回復し、市場はスイス政府とアメリカの交渉による妥協を期待している状況です。スイス政府も「交渉による解決を望む」と表明しています。
ブランドごとの対応
大手ブランドはそれぞれの戦略でこの関税に備えました。
スウォッチグループは発動前に約6億ドル分の在庫をアメリカへ移送し、さらに5%の値上げを行っています。
一方で、英国ブランド「クリストファー・ワード」は、アメリカでの価格表示に「関税額」を明記する透明な方式を導入しました。例えば4,210ドルの時計には1,892ドルの関税が加算され、合計6,429ドルという形で提示されています。
さらに話題を呼んだのは、スウォッチのCEOニック・ハイエック氏による「金の輸出にも39%の関税をかけるべきだ」という提案です。これにはスイスの貴金属業界が強く反発し、政府も慎重な姿勢を示しました。時計を超えてスイス経済全体に波紋が広がっているのです。
新品市場と中古市場の二極化
新品市場では値上げが避けられません。ロレックスやオメガといった超高級ブランドはブランド力で価格転嫁が可能ですが、ティソやオリスなど中価格帯のブランドは苦境に立たされています。米市場から撤退を検討する声すら出ています。
その一方で、中古市場は活性化しています。新品の高騰により消費者が中古へとシフトし、ロレックス・デイトナの中古価格は2025年前半だけで約5.8%上昇しました。調査によれば、中古市場は2024年時点で228億ドルに達し、2033年には320億ドル超へと拡大する見通しです。
Z世代とサステナブル志向
特に注目されるのが若年層、いわゆるZ世代の動向です。彼らは新品よりもヴィンテージや認定中古品に魅力を感じ、購入検討率も高いことが調査で明らかになっています。加えて、環境配慮や持続可能性を重視する傾向が強く、中古市場やリセール市場の拡大を後押ししています。
世界市場への波及
スイスブランドは米国依存を減らすため、インドやベトナムなど新興国市場の開拓に動き出しています。また、AIによる製造効率化、AR試着、ブロックチェーン認証といったデジタル戦略も加速中です。
限定モデルやサステナブル素材を使った商品展開も進んでおり、関税ショックを逆に新しい価値創出の機会と捉えるブランドもあります。
日本市場への影響
日本市場も無関係ではいられません。スイスブランドは世界的に定価を均一化する傾向があるため、アメリカの値上げは日本にも波及します。例年9月に行われる定価改定は、今年も数%から10%程度と見込まれていますが、今回の関税の影響でさらに上乗せされる可能性があります。
一方で、日本ブランドには追い風です。セイコーやシチズン、カシオなどは品質と価格競争力を兼ね備えており、アメリカ市場での存在感を高めるチャンスです。国内消費者も輸入品高騰を背景に国産ブランドへ目を向ける可能性があり、グランドセイコーの再評価も期待されます。
さらに日本は、中古市場の透明性や信頼性で世界的にも高く評価されています。CPO（認定中古）の普及が進めば、国内外の需要を取り込むことができるでしょう。
まとめ
アメリカの39%関税は、一国の政策にとどまらず、世界の時計市場を再編するほどのインパクトを持っています。新品市場は値上げ、中古市場は需要増加、そしてデジタル戦略とサステナブルへのシフトが進行中です。
日本にとっては、輸入時計が値上がりする一方で、国産ブランドや中古市場に追い風が吹く構図が見えてきました。消費者にとっては、買うべきタイミングや投資先を見極める上で、まさに重要な局面だと言えるでしょう。
今後も時計市場は動き続けます。次なる値上げや市場変化を前に、最新情報を常にキャッチしておくことが、賢い選択につながります。
