ブヘラの42%プレミア価格が示す未来
2023年、ロレックスはスイスの老舗時計販売店「ブヘラ(Bucherer)」を買収し、CPO(Certified Pre-Owned=認定中古)市場に本格参入しました。これまで並行輸入品や一般中古市場が担ってきた「ロレックス中古流通」に対して、ブランド自身が保証と価格を明示する時代が始まったのです。
そして2025年7月、話題となったのがブヘラで販売されたエクスプローラー。定価に対し、CPO品の販売価格は定価比で実に42%のプレミア価格が設定され、大きな波紋を呼びました。
果たしてこの「正規CPOモデルのプレミア化」は、ロレックス市場にどのような影響を与えるのでしょうか。今回は、CPOが与える心理的・実務的な波及を多面的に考察していきます。
CPOとは?ロレックスの「認定中古」制度の本質
まずCPOとは何かを簡単に整理しましょう。CPOとは「Certified Pre-Owned」の略で、ブランドまたは認定業者が一定の基準を満たした中古品を「公式に」保証する制度です。
ロレックスの場合、通常の中古時計とは異なり、以下のような条件を満たすことでCPOとして再流通します:
- 正規販売店による真贋確認
- 公式メンテナンス(必要に応じて純正パーツで修理)
- 再度発行される「グリーン保証タグ」および2年保証
- 専用パッケージでの納品
つまり、CPOとは単なる中古品ではなく、「信頼と安心を再パッケージした商品」です。特に高額なロレックスでは、真贋の安心感やメンテナンス履歴の明瞭さが非常に重要であり、それにお金を払う人が一定数存在するのは自然とも言えます。
ブヘラの「42%プレミア」が意味するもの
今回のニュースで注目を集めたのは、CPOロレックスに対して“異常ともいえる”高額なプレミアが付けられたことです。定価より42%も高い価格で販売されたCPOエクスプローラーIは、通常であれば定価前後で取引されているモデル。並行品であれば150万円台も見える相場感です。
この価格差には以下のような複数の意図が読み取れます:
- ロレックス自身が中古価格の基準を引き上げたい
- プレミア価格によってブランド価値を維持・強化する
- 将来的に正規品と中古品の区分けを明確にし、並行市場をコントロールする
つまりこの42%という数字は、単なる価格設定以上に、今後の“ロレックス戦略”を象徴する数字なのです。
CPOは並行相場に何をもたらすか?
CPOが本格的に普及していく中で、最も注目されるのが「並行相場への影響」です。
現在、中古ロレックスの流通は以下の3層に分かれています:
- 正規販売店の新品
- 並行輸入品(新品〜中古)
- 一般中古市場(非正規/保証なし)
ここにCPOという“第4の市場”が加わることで、「信頼性」と「価格帯」に大きなズレが生じ始めます。
特に影響を受けるのは並行新品や高年式の中古品。これまでは「ギャラ付き・使用感少なめ=安心できる中古」として市場評価を受けていましたが、CPOの登場によって「CPOのほうが信頼性が上では?」という意識が広がれば、相対的に価値が下がるリスクがあります。
さらに、CPOの価格が上昇基調で維持されると、「CPO価格が中古相場の天井」として機能する可能性もあります。これが結果として、一般中古市場や業者間の買い取り価格のベンチマークを引き上げる要因になるかもしれません。
CPOが資産性を押し上げる構造的要因
CPOの普及は、ロレックスの資産価値という観点からも重要です。
ロレックスは元来、「資産性のある時計」として評価されていますが、それはあくまで「流通市場で高値がつく」ことが前提でした。CPOの登場により、今後は以下のような変化が予測されます:
- CPO=再販売可能な“セミ新品”として認識される
- 保証期間が付くことで「売却時の安心感」が向上する
- 相続や贈与などの際にも信頼性の担保になる
たとえば、CPOタグのついたロレックスは、今後「資産として再評価される対象」として注目されるでしょう。特に富裕層の資産ポートフォリオにおいて、金や株と同様に“管理できる資産”としての地位を築く可能性もあるのです。
消費者にとってCPOは“お得”なのか?
ただし、すべてのユーザーにとってCPOが魅力的かといえば、答えはNOです。
例えば以下のような場合、CPOの割高感は否定できません:
- 並行輸入品が同じモデルを20〜30万円以上安く販売している
- 保証にこだわらず、とにかく安く手に入れたいユーザーにとっては割高
- 投資目的で売買を繰り返す層には“再保証のコスト”が無駄になる
CPOの真価が発揮されるのは、長く使いたい人/資産価値を守りたい人/安心をお金で買いたい人という層です。一方で、短期トレードや価格差益を狙う投資家にとっては、CPOはやや“鈍重な商品”に映るかもしれません。
ロレックスの真意は「並行潰し」か?
最後に少し深読みを加えると、ロレックスがCPO市場を支配しようとする意図には、長年課題だった「並行市場との競合」があるのは間違いありません。
実際、正規品は常に品薄。並行輸入がその需要を満たしてきた歴史があります。しかし、その結果としてブランド価値のコントロールが効かなくなっていたのも事実です。
CPOという「正規中古流通網」をブランド自身が管理することで、次のような成果を狙っているとも考えられます:
- 中古相場の価格安定とコントロール
- 正規ルートで買うことの安心感を再認識させる
- 並行品=安かろう悪かろうという印象操作
このように考えると、CPOとは「中古品の革命」であると同時に、「ブランドコントロールの再奪還策」なのかもしれません。
まとめ:CPOは“時計の未来”を変える起点になるか?
CPOは、単なる保証付き中古時計ではありません。それは「安心を価格に転換した証」であり、ロレックスが今後の市場の主導権を握るための戦略的ツールでもあります。
今後、ロレックスを資産として保有する人にとって、「CPOタグ付き」という属性が価値を持つ可能性は非常に高く、売却時の評価にも影響してくるでしょう。
とはいえ、すべての人にとって万能な選択肢ではありません。投資家や転売目的のユーザーには、コストがネックになる場面もあります。大切なのは、「何を重視するか」で選ぶことです。